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栄養/サプリメント

水分補給の落とし穴

運動前のアミノ酸摂取はエネルギー代謝にどう影響するか?

来シーズンに向けて何か新しいことを始めよう〜栄養補給再考

カフェイン再考〜最も古くて新しいエルゴジェニックエイド(パフォーマンス増強剤)

糖質は敵か味方か?〜レースに必要な栄養補給とは〜

水分補給の落とし穴

 1998年8月のアイアンマン・カナダ。猛暑と高い湿度がアスリートを苦しめた。同じ年の6月に別のレースで陥った脱水による苦い経験から、このカナダのレースでは水分補給に細心の注意を払っていた。しかし、水分補給を十分に行っていたにもかかわらず、実際にはラン後半から頭痛、吐き気に襲われ、ついに歩き始めた時には方向感覚さえ危ういといった症状に陥っていた。何とかたどり着いたゴールの後はメディカルテントへ直行。約3時間にわたり6本の点滴を受けた。

実は、このとき私が苦しめられたのは脱水ではなく、神経質になり過ぎたばかりにかえって過剰となった水分摂取により引き起こされた「低ナトリウム血症」というものだった。低ナトリウム血症とは、血中ナトリウム濃度が異常な低値(135mmol/l以下)を示すもので、ひどい場合では、めまい、けいれん、頭痛、方向感覚喪失、昏迷などの神経障害を引き起こし、意識不明や死に至る場合さえある。過剰な水分補給は血中ナトリウム濃度を著しく低下させ低ナトリウム血症を引き起こす。これは、暑熱環境下の運動中では脱水や熱中症と並んで重大な問題である。これまで水分補給の重要性は認識されてきたものの、実はそこに落とし穴があることまではあまり認識されていなかったようだ。

2002年のボストンマラソン参加者のレース後の血液を調べた調査研究では、対象者の13%強が低ナトリウム血症と診断された(Almondら、2005年)。しかも、これによって1名亡くなっている。原因を調査した結果、水分の過剰摂取が最も大きな原因であることがわかった。低ナトリウム血症をきたした参加者では、レース後のほうが体重が多かったほどで、水分の摂取量が発汗量を上回っていた。また、体重の少ない人ほど低ナトリウム血症になりやすいことも指摘されている。これは、体重が少ないにもかかわらず、多い人と同等に水分摂取を行っていたからだ。加えて、レース時間の長い人ほど低ナトリウム血症になりやすい。

 アイアンマン・ハワイでも完走者のうちの実に29%が低ナトリウム血症であったと報告されている(Hillerら、1985年)。また、1997年のアイアンマン・ニュージーランドへの参加者の半数にあたる330名を対象とした調査では、その23%が低ナトリウム血症と診断された(Speedyら、1999年)。低ナトリウム血症の原因としては、ここでも水分の過剰摂取が指摘されている。実際、レース後の血中ナトリウム濃度と体重の変化には有意な関係が見られ()、レース前後の体重減少が小さいほど血中ナトリウム濃度が低くなった。また、女性では男性よりレース後の体重変化が小さく、血中ナトリウム濃度が低くなり低ナトリウム血症を引き起こしやすい。

 アイアンマン・南アフリカでも同様に、低ナトリウム血症になったアスリートでは体重増加が起こっており、水分の過剰摂取が原因と指摘されているNoakesら、2004年)。この場合、発汗による体内ナトリウム自体の減少はそれほど見られなかったため、発汗量を上回る水分摂取が血液中のナトリウム濃度を低下させたようだ(Montainら、2006年)。

 このように、のどが渇く前にこまめに水分補給することが脱水予防には第一とまで言われる昨今ではあるが、かといって神経質になり摂取し過ぎると重大な落とし穴に陥ってしまう。水分必要量には個人差があり、エイドステーションでは体重差に関係なくほぼ同量のドリンクが用意されており、人によっては過剰摂取となることもあるため要注意だ。通常は少々飲み過ぎても速やかに尿として排泄されるが、運動中では得てして排泄が遅れる。

水分補給には、単なる水ではなく、ナトリウムなどの電解質の入ったものを運動時間や体重、発汗量に合わせて過剰にならないよう摂取するようにしたい。しかし、たとえ電解質が入っているとはいえ、結局は体内のナトリウム濃度を低下させることにつながる。通常のスポーツドリンクではナトリウム濃度が不十分だからだ。また、発汗量が多く汗中の塩分濃度の高い人では、発汗量に見合う水分摂取を守って過剰を防いだとしても、汗によってナトリウムが失われているため、結局は低ナトリウム血症になりやすい。

実は、低ナトリウム血症を完全に防ぐためのこれといった効果的な方法があるわけでない。レース前の食事の塩分量を調節したり、レース中に塩分補給を行ったりすることも必要であるかもしれないが、経験則に頼らざるを得ない面は否めない。また、塩分の摂取が過剰になったり水分補給が控え目になったりすることによって、今度は脱水の問題が出てきては元も子もない。このあたりのさじ加減が難しい。とは言え、これらの問題の起こりうる可能性を認識しておくことは、安全に競技を行う上で重要となることは間違いない。

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運動前のアミノ酸摂取はエネルギー代謝にどう影響するか?

 最近ではレースのみならずトレーニング中の補給食としてすっかり定番となっている「アミノ酸」であるが、アミノ酸サプリメーカーの広告やテレビなどで謳われている効果には、実のところいまだ明確な根拠が示されていない(Gleeson、2005年)。実際にアミノ酸サプリを使用したアスリートの話に耳を傾けると、「調子がよくなった」といった声を聞くことも確かに多い。しかし、それが果たして摂取したアミノ酸サプリによるものなのか、たまたま運動前に摂った食事によるものなのか、単なる心理的な効果によるものなのか、あるいは他の何らかの要因による偶然なのかを判断することは難しい。また、日々移ろうバイオリズムや生活習慣の変化の中では体調そのものも自ずと変化しているため、結局、何が奏効して「調子がよくなった」のかを説明するのは困難である場合が多い。
 しかし、さまざまな条件を可能な限り一定に整えた上でその因果関係を捉えることは可能だ。それには、サイエンスの手を借りるしか方法はない。そこで、我々はアミノ酸の効能を評価すべく、習慣的なトレーニングを実施している19名のアスリート(トライアリート、サイクリスト他)を対象に研究を行った(川崎市立看護短期大学西端助教授研究室にて平成16年11月から平成17年6月まで実施)。運動前のアミノ酸摂取が運動中のエネルギー代謝にどのように影響するかを検討したものだ。
 この研究では、習慣的なトレーニングを行っている被験者に運動開始10分前にアミノ酸飲料あるいはプラセボ(偽薬)飲料を摂取してもらい、その後、AT(無酸素性作業閾値)のマイナス10%の運動強度で90分間の自転車運動を行ってもらった。また、二重盲検法(研究者も被験者も全測定終了時まで誰が何を摂取したかは知らされない)で実施することによって心理的影響や先入観を取り除き、測定前の食事の影響を排除するために測定前夜の夕食以降は測定が終了するまで何も食べないように被験者にお願いした。
 結果から言うと、心拍数、酸素摂取量、血中乳酸濃度(図1)、血中グルコース濃度、呼吸交換比(図2、糖質と脂肪の消費量の割合を示し、値が小さいほど比較的糖質消費量が少なく脂肪消費量が多い)には摂取した飲料による有意な違いを見ることはできなかった。
 通常、絶食状態で長時間の運動を行うと、運動後半では脂肪消費が増加する傾向にある。プラセボ飲料を摂取した場合では、確かに運動試験後半に呼吸交換比が低下し脂肪の消費が高まる傾向が見られた。しかし、アミノ酸を摂取した場合では、呼吸交換比の低下はそれほど見られず、むしろ運動時間が40分を超えたあたりから脂肪の消費がかえって抑えられている傾向にあるようにすら見える(図2)。しかも、アミノ酸を摂取した場合では血中グルコース濃度が運動試験後半で低下する傾向にあったことからも、アミノ酸の摂取が糖質の消費を促進している可能性がある。
 長時間に及ぶトライアスロンでは、後半のエネルギー切れが失速の原因になることが多い。図2からもわかるように、絶食では脂肪の消費が高まるが、絶食状態で競技を行うことを考えれば、必ずしも競技後半で脂肪を使うことが有利とは言えないことがわかるだろう。脂肪は絶食のような危機状態において初めて有効となるからだ。したがって、競技後半ではエネルギー補給を行うことが必須であるが、それは糖質の消費を維持するように行うことが重要となる。その点では、アミノ酸の摂取はプラシボ飲料と比較して糖質の消費を維持する傾向を示したことから有利と言えるかもしれない。しかし、糖質の消費を維持する目的であれば何もアミノ酸である必要はなく、糖質そのものの摂取で十分なはずだ。
 また、アミノ酸は乳酸に変換されないから有利だとの話もあるが、アミノ酸は糖質に変換された後に乳酸になる可能性があるばかりか、我々の実験ではプラセボ飲料と比較して血中乳酸濃度(図1)にまったく違いがなかったことからも、アミノ酸の摂取が必ずしも有利とは言えない。
 アミノ酸の摂取が運動中に何ら効果を示さなかったとする研究報告は多い(Suttonら、2005年、Cheuvrontら、2004年、Pitkanenら、2003年)。運動時のエネルギー代謝に関して著名なテキサス大学のコイル博士によると、運動時は強度や時間、環境(温度、湿度等)に合わせて、糖質や水分、塩分こそ適切に摂取すべきであって、アミノ酸を摂取したとしてもほとんど効果はないと述べている(Coyle、2004年)。
 アミノ酸は我々の体を構成する主要成分だ。特に必須アミノ酸は必ず食物から摂取しなければならない。しかし、摂取し過ぎると利用されずに肝臓や腎臓に大きな負担をかけることにもなりかねない。このように、運動時のアミノ酸の効用に関しては摂取量や摂取期間の検討も含め今後のさらなる研究成果を待たねばならないが、現段階ではあくまで自身の判断のもとで摂取することがふさわしいと言えるだろう。
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来シーズンに向けて何か新しいことを始めよう〜栄養補給再考

 今年のトライアスロンシーズンも終わりを迎えた。一年を振り返って思い返すことは人それぞれさまざまだろう。またオフシーズンの過ごし方も人それぞれだ。
 オフシーズンは、シーズン中にはできない新しいことを実行できる貴重な季節でもある。たとえば、バイクのポジションを変えたり、トレーニングの環境を変えたりと、シーズン中に行うには思い切りの必要なものもある。
 ところで、スイム、バイク、ランの次にトライアスロンには重要な要素がもう一つある。栄養補給だ。レース中の補給食を見直すためにもこのオフシーズンは有効となる。暑い夏場やシーズン中と異なり、消化器系の負担が少なくなるからだ(とはいえ年末・年始の暴飲暴食は避けましょう?)。
 私事ではあるが、実は今年出場した2度のアイアンマンではいずれも昨年と異なるドリンクを使用した。レース中のパフォーマンスへの影響からの実感は少なかったのだが、もっとも驚いたことはレース後である。通常、レース翌日は階段を下りるのが困難なほどの筋肉痛に見舞われることが多かった。しかし、今シーズンは2レースとも翌日の筋肉痛がまったくと言っていいほどなかったのだった。
 実は、これを裏付ける研究が報告されている。トレーニングを行っているサイクリスト15名に2種類の異なるドリンクを飲ませ、最大酸素摂取量(最大有酸素パワーの指標)の75%あるいは85%の強度における自転車運動をインターバルをはさんで連続して行わせ、それらの疲労困憊時間を比較した(Saundersら, 2004年)。ドリンクは、一つは糖質にたんぱく質を加えたもの、もう一つは糖質だけのものだった。図1に示す通り、どちらの運動強度においても、糖質にたんぱく質を加えたドリンクのほうが有意に疲労困憊時間を延長させた。最大酸素摂取量の75%の強度では29%、85%の強度では40%もの向上を示した。つまり、糖質にたんぱく質を加えたドリンクを摂取した場合、より長い時間同じ高強度の運動を持続することができるようになったのだ。この理由として、たんぱく質の添加が糖質や水分の腸管での吸収を促進したからではないかと説明されている。
 また、最大酸素摂取量の85%強度の運動(Ride 2、図1)は、Ride 1の12−15時間後に行われているが、たんぱく質の添加がこのインターバル中に筋グリコーゲン合成を促したとの可能性も指摘されている(Williamsら、2003年)。これが、次のさらに高強度の運動時(すなわちRide 2)における疲労困憊時間を40%増大させた可能性は大きい。しかし、他の研究において、この効果がアミノ酸の添加では見られなかったことは興味深い(Carrithersら、2000年)。
 ところで、このドリンクは単に糖質にたんぱく質を加えただけではなく、その配合比率に秘密があるようだ。いくつかの同様の研究報告では、配合比率が糖質4に対してたんぱく質1のもの(つまり4:1)において特に顕著に効果が確認されている(Ivyら、2003年、Williamsら、2003年)。ところが、配合比率が違うドリンクを用いた研究(たとえば3:1)では同様の効果は認められなかった(Tarnopolskyら、1997年、Van Hallら、2000年)。この研究(Saundersら, 2004年)では、糖質濃度7.3%とたんぱく質濃度が1.8%になるように調合されたドリンク(糖質のみのドリンクは濃度7.3%)が用いられ、体重1kg当たり1.8ml、運動中は15分ごとに被験者に与えられた。
 また、糖質+たんぱく質ドリンク(配合比率4:1)を摂取した場合では、Ride 1後の血漿中のクレアチンホスホキナーゼ濃度が糖質のみのドリンクより83%も低い値を示した(図2)。Ride 1では、最大酸素摂取量の75%強度で疲労困憊まで行ったため、その運動後は相当の筋ダメージがあったと考えられる。クレアチンホスホキナーゼは筋ダメージの一般的な指標として用いられるが、これが糖質+たんぱく質ドリンクを摂取した場合に明らかに低い値を示した(しかも安静時のレベルとそれほど大きな違いがない)。このことは、糖質とたんぱく質の組み合わせが筋の損傷を抑えたことを示している。
 私が今年体験したレース後のダメージの少なさは、実はこの糖質+たんぱく質ドリンク(配合比率4:1)を使用したからかもしれない。近年、数が多くなってきているこの種の研究成果にも裏付けられるように、これまでの常識を覆すこのような新たな栄養補給方法が開発され始めている。ぜひ、このオフシーズン中にいろいろな栄養補給方法を試してみるのも、チャレンジ精神旺盛なトライアスリートのオフの過ごし方とも言えるのではないだろうか。
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カフェイン再考〜最も古くて新しいエルゴジェニックエイド(パフォーマンス増強剤)

 朝の一杯のコーヒー。習慣的にコーヒーを飲む人では目覚めのモーニングコーヒーが欠かせない。しかし、コーヒーに含まれるカフェインには利尿作用があるため、運動前中の摂取は脱水の引き金になると言われてきた。また、興奮作用があることから数年前までは世界アンチ・ドーピング規定の禁止薬物リストに載っていた(現時点では禁止薬物リストからはずれ監視プログラムに移行している)。このようなことから、運動前はコーヒーなどのカフェインを含む飲料を極力控えたり、普段からあえて飲まないようにするアスリートも多いのではないだろうか。
 コーヒーなどに含まれるカフェインが、持久力などのパフォーマンスを高め、交感神経系の興奮を介し思考力や集中力を高めることは古くから知られているところだ。関連する研究報告はこの手の中では最も多い。そして、先述のようにドーピング対象薬物ではない。ならば、これを使わない手はない?!
 しかも、一般的にカフェインには利尿作用があると認識されているが、最近の研究報告では必ずしもそうとは言えない根拠が示されている。コーヒーを飲む習慣がない人が11日間にわたって体重1キロあたり3-6mgのカフェイン(例:スターバックスラテトールサイズ約2杯分)を毎日摂り続けたところ、カフェインをまったく摂らなかったグループと比較して、24時間中の排尿量、体重、ナトリウム/カリウムの排泄量に何ら違いがなかった(Armstrongら、2005年)。このことから、一般的に知られるカフェインの利尿作用や脱水への影響には必ずしも根拠があるとは言えないようだ。
 また、運動中のカフェイン摂取が腸からの糖質吸収を促進するといった報告がある(Van Nieuwenhovenら、2000年)。通常のスポーツドリンク1リットルあたりに150 mgのカフェインを加えて摂取したところ、スポーツドリンクだけの場合より糖質の吸収が有意に高まった。これは、効率のよい糖質の吸収・供給が必要となるトライアスロンではカフェイン摂取が有効な手段となる可能性を示している。加えて、2時間の自転車運動中にカフェイン(5mg/kg/時間)を含むスポーツドリンク(糖質濃度5.8%)を摂取すると、糖質の吸収が促進され、しかもその消費量を高めたと報告されている(図参照、Yeoら、2005年)。つまり、トライアスロンといえども必要とされるエネルギーの80-90%は糖質に依存していることから、カフェイン摂取が高いレベルでのパフォーマンス維持には有効となる可能性がある。最近ではレース中の食べ過ぎ、飲み過ぎの問題が取り沙汰されているが、このカフェインの効能はその解決策にもなり得る。また、これらの効果は習慣的にコーヒーを飲む人よりもそうでない人のほうで顕著に起こるようだ(BellとMcLellan、2002年)。
 さて、アイアンマンなどのロングのトライアスロンではレースの中盤から後半にかけてエイドステーションで用意されているコーラを摂取する人は多い。経験的にコーラに含まれるカフェインと糖質のコンビネーションが最後の踏ん張りを後押ししてくれるようだ。そこで、Coxら(2002年)がこのコーラの効能について実験的に確かめているので紹介したい。実験では、まず被験者に最大酸素摂取量の70%の一定運動負荷における自転車運動を2時間させ、その直後にタイムトライアルをさせた。被験者は一定負荷運動の1時間前、あるいは運動中に体重1キロあたり6mgのカフェイン、または一定負荷運動中に体重1キロあたり10mlのコーラのいずれかを摂取した。その結果、タイムトライアルの成績が運動前にカフェインを摂取したグループで3.4%、運動中にカフェインを摂取したグループとコーラを摂取したグループでは3.1%改善された。
 さらに、2時間の自転車運動の最後の40分に、体重1キロあたり15mlの6%濃度糖質ドリンク(カフェイン入りまたは抜き)、あるいはコーラ(糖質濃度11%)のいずれかを被験者に摂取させ、タイムトライアルの結果を比較した。その結果、カフェイン入りコーラが3.3%の改善を示し、他のドリンクを摂取したグループを上回った。このように、運動前中に関わらず、カフェインの摂取がパフォーマンスアップに貢献し、また糖質とカフェインの両方が高濃度で含まれるコーラでは特に運動後半においてその真価を発揮するようだ。つまり、エイドステーションの定番「サバイバルツール」であるコーラの価値が改めて実証されたかっこうだ。
 このように、古くからエルゴジェニックエイドとして知られるカフェインの有効性が、一時はドーピング禁止薬物リストに掲載された時期があったものの改めて評価されている。しかし、安易に薬物やサプリメントに手を出すことが危険なように、カフェインについても摂り過ぎることによって起こりうる弊害には注意する必要はありそうだ。
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糖質は敵か味方か?〜レースに必要な栄養補給とは〜

 結論から述べよう。「糖質」は紛れもなくトライアスロンにとって最大の味方である。運動時のエネルギー利用に関して世界的に著名なテキサス大学のエドワード・コイル博士によると、運動時では、糖質、水分、塩分こそ適切に摂取すべきであって、それら以外のもの、たとえばアミノ酸などは摂取すべきでないと述べている(Coyle、2004年)。
 マラソン中では糖質の消費量が多いランナーほどタイムがよい(図1、O'Brienら、1993年より作図)。タイムのよいランナー(2時間45分以下)と平均的なランナー(3時間45分以上)のレース中の糖質の利用について比較すると、タイム差にかかわらず、マラソンレース中は糖質を総エネルギー消費量の80-100%も利用していることがわかった。持久的な運動の代表格であるマラソンであってもエネルギーの主体は糖質である。しかも、タイム差にかかわらず脂肪の利用は両グループでは差がなかった。つまり、タイムが遅いからといって脂肪の利用が多くなるわけではなさそうだ。
 また、アイアンマンに出場した男女では、フィニッシュタイムが運動中の糖質の摂取量と相関関係にあったとの報告もある(Kimberら、2002年)。さらに、レース前1週間に通常より糖質摂取を増やすことが30キロ走のパフォーマンスを高める(図2、Wiiliamsら、1992年より作図)。このように、トライアスロンにおける最大のエネルギー源は糖質なのだ。だからこそ、レース中は糖質補給が不可欠であり、またレース前にはカーボローディングによって体内にできるだけ多くの糖質を蓄えておこう。これが間違いなくパフォーマンスにプラスになる。
 食事から摂った糖質は、体内では筋肉や肝臓にグリコーゲンとして、あるいは血液中にグルコース(血糖)として蓄えられる。特に、筋に蓄えられるグリコーゲンはパフォーマンスに大きく関わっており、この枯渇がオールアウト(疲労困憊)を招く(CogganとCoyle、1991年)。一方で、脂肪が使えないからといって運動を継続することができないことはなく、「脂肪切れ」でオールアウトやボンク(低血糖)になることもない。筋グリコーゲンこそが重要であり、これが十分に蓄えられていればパフォーマンスを維持することができるのだ(Widrickら、1993年)。
 運動中は、1時間当たり30-60グラムの糖質が、疲労を抑えパフォーマンスを維持する上で必要とされる量だ(Coyle、2004年)。これによって、筋グリコーゲンを節約することができる(Yaspelkisら、1993年)。カロリーにして1時間当たり120-240kcal。市販のスポーツドリンク(糖濃度7%として)では400-800ml/時間といったところだろうか。
 糖質は最速で筋に利用され、最優先で利用される燃料である。競技レベルを向上させるためには最もエネルギー供給スピードの高い糖質が利用されなければならない。たとえ、トレーニングによりに脂肪利用率が高まったとしても、脂肪をエネルギーとして利用しようとする限り運動強度(スピード)を落とさざるを得ない。それは、高い強度の運動では、供給速度の遅い脂肪ではエネルギー需要に間に合わないからだ。また、脂肪は糖質が利用されないと燃焼されないことも知っておきたい。
 レース中の燃料の主体を糖質とするか脂肪とするかは、トレーニングや食事の内容とは直接的には関係なく(Sidossisら、1997年)、あくまで運動強度に依存する(BrooksとMercier、1994年)。パフォーマンス向上を目的とするなら、できるだけ高い運動強度を維持したいものだ。そのためにはやはり素早く利用することのできる糖質を利用するに限る。このためには、トレーニングと食事で筋グリコーゲン合成を促進させる、トレーニングによりグリコーゲン貯蔵庫である筋を増大させる、より高強度のトレーニングで糖質供給スピードを促進させる、運動中の効率の良い糖質補給を考えるなどの工夫をしたい。
 糖質を摂ると乳酸がたまりやすいとか脂肪の利用が低下するとかの理由で、糖質をできるだけ遠ざけようとするトライアスリートも多いようだ。運動前や運動中に糖質を摂取することによってインスリンが分泌されるが、その作用により脂肪分解が抑えられパフォーマンスが低下すると考えるのは間違いだ(Chryssanthopoulosら、1994年)。運動中は、運動強度に応じてアドレナリンというエネルギー代謝の要になるホルモンが多く分泌されるが、このホルモンの作用は糖質摂取により分泌されるインスリンの作用を上回る。もっとも、アドレナリンによってインスリンの作用が抑制されたところで、運動強度を上げれば当然糖質の利用度が高まるので、脂肪の利用は自ずと滅少する。
 また、日常から低炭水化物食や低インスリン食などで糖質の摂取を控える向きもあるが、これらの効果は運動中の糖質摂取で帳消しになってしまう(Burkeら、1998年)。たとえ、低インスリン食品がインスリンの分泌を抑えたとしても、少量のインスリンでも脂肪の分解は抑えられてしまうため、通常食の場合と何ら変わりはない(Horowitzら、1997年)。むしろ、糖質不足あるいは脂肪過多による高ケトン体血症(血液のpHが異常に酸性に傾く)や電解質(カリウム、ナトリウム)の過剰排泄などの健康上の弊害のほうが懸念される。
 このように、トライアスリートにとっての食事が糖質主体にあることは間違いない。改めて糖質摂取の重要性を見直したいものだ。
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